魔王  伊坂 幸太郎

「考えろ考えろマクガイバー」がモットー(?)の考察好きの会社員、安藤。
自分の考えていることを相手に言わせるという不思議な力を身につける。
その頃、日本は政治に対する諦めの気分が充満していた。
が、そこに犬養というこれまでとちょっと違った政治家が現れる。
決断力があり、人を引き付ける力を持つ犬養に
国民はどんどん惹かれていき、
安藤はそこにファシズムの気配を感じて不安になる。


安藤の不安もわかるけれど、
国民が犬養に惹かれていく気持ちもわかる。
この本に書かれている政治の状況って、
今の日本にもしっくり当てはまっちゃうからなあ。


権力を持っている人やお金を持っている人が
自分たちに都合のいいような流れをつくって、
不満に思いながらも、結局はそれを変えるのなんて無理だと諦めていて、
たまに、そんな世界を変えよう!という政治家が現れて一瞬期待しても
結局は私たちの見えない政治の世界でそういう力は削ぎ落とされて、
尻つぼみになってしまう。
ああ、またか。やっぱりね。みたいな。


だからこそ、犬養みたいな政治家に飛びつくのもわかるのだけれど、
そこはやっぱり「考えろ考えろ」が大事なんだなあ。
事実を切り取った報道や
自分の思いに添って流れ出るネット上の情報だけに踊らされるのではなく、
自分で考えることが大事なんだなあ。


後半の「呼吸」は、安藤の弟、潤也とその恋人詩織とのその後の物語になる。
彼らの静かな生活と、生き方はステキだなあと思いつつ、
最後の潤也の野望に、なんとなく怖さを覚えた。
続きがあったら読みたいかも。な感じ。


魔王

魔王