リアル・シンデレラ  姫野 カオルコ

童話「シンデレラ」の主人公であるシンデレラに
どうも共感できない「私」。
この「私」が勤める編集プロダクションの社長も同感らしく
この社長が思う本当のシンデレラである「倉島泉」について
取材してノンフィクションを書くようにと言われる。


この「倉島泉」について、取材してわかったことが
物語形式で描かれていくわけだが、
たしかに、「泉」の子ども時代はシンデレラと重なる。
一つ年下の妹「深芳」は身体が弱く、そして美しく、勉強もできて
誰からも愛される。
両親の愛情も妹に注がれる。
姉の泉はまるで家政婦のようだ。
年頃になってからは、周囲の男性の愛情も妹が独り占めする。


でも、泉はそんな自分の境遇を嘆くこともなく
妹をうらやむこともなく、
逆に妹の喜びを自分の喜びとする。
それは妹に対してだけではなく、
自分を取り巻くすべての人に対してそうなのだ。
泉は、自分のことを悪く言う人についても
それを恨むでもなく、自分をかばうわけでもなく、
言い訳をするでもない。
あまりに自分の利益や喜びに対して無頓着である泉に
逆に不信感を抱く人もいるほどで。
いったい、どうしてそんな風に思えるのだろうと。
まさにミステリーだ。


そんな泉の周りには常に、
それでも少し離れた場所から彼女を優しく見守る目があり、
そしてそういう人たちからは
彼女はとても美しい人だと認識されており、
それもまたミステリーで。


そんな泉のミステリーは
後半で少し明らかになる。
彼女が真剣に考えて、決めて、そして祈った3つの願い事。
その切なさと、幼い泉の思いに
胸がジーンとなった。


自分が自分がと、自分のことばかり考えて、
人のことを批判ばかりして、
自分を弁護することばかりに心をくだいて、
今の世の中は、そんな人ばっかりだなあ。
もちろん、自分自身も含めて。
だから、疲れちゃうんだなあ。


シンデレラは、お母さんとお姉さんを不幸にして、
自分だけ幸せになったけれど、
泉は誰も不幸にしなかった。


リアル・シンデレラ

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