木暮荘物語  三浦 しをん

都心に近い住宅街にある木暮荘。
隣りの部屋の物音が丸聞こえしちゃうくらいの
古いアパートだけれど、庭があって、犬がいて、
外壁は茶色、窓枠は白のペンキで塗っていて、
なんとなく素朴で温もりを感じられる建物で。


その木暮荘に住む人たちと、
木暮荘になんらかの形が関わる人たちの話が
オムニバスで綴られている。
地味だけどなんだかモテているような花屋の店員や
派手で男を連れ込みまくる女子大生や
心の中で悶々としている大家のおじいさんをはじめ、
花屋のオーナー夫婦や
木暮荘の犬の汚さが気になっている通りすがりのトリマーや、
いろんな人たちが登場する。
普通にどこにでもいそうな人たちだけど、
心の中にはいろいろ抱えているものがある。
それは愛だったり、性だったり、生だったり、母性だったり。


ただ、なんとなくみんなに共通しているのは
「距離の取り方がずれている」こと。
それが妙に心地いい、というか
安心する。


最近の風潮では、「空気を読む」ことが大事にされていて
それは相手の気持ちを思い測ることにももちろんつながって
人を傷つけないことにもつながっているのだけれど。
でも、あまりにも予定調和的であったり、
そこから違う空気を出してしまうことに
排他的であったり、
そうなることを恐れるような雰囲気が大きくなっているような気がする。


だから、その距離の取り方がずれている人たちがいて、
それを受け入れたり、おもしろいなと思う人たちがいると
ほっとするのかもなあ。


ラストもなんとなーくいい感じだった。


木暮荘物語

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