船に乗れ!  藤谷治

タイトルの「船」とは関係なく
音楽学校を舞台にした物語。
小説版ののだめちゃん、というような
文字だけで音楽が聞こえてくるような、
演奏者の息遣いが聞こえてくるような、
無性に音楽が聴きたくなる物語だ。


が。
登場人物たちは、あまり心地よい人物たちとは言えない。
主人公のサトルは、意味もわからず哲学書を読んでは
オレってできる、同級生とは違うぜ、みたいな嫌味な男の子だし、
そんなサトルと後に恋人となる南は
これまた負けず嫌い&裕福でない境遇をひがみまくっている女の子で、
音楽学校の先生や友人、先輩も
音楽をやっているにしては俗物的というか。


でも、そうなのかもなあ。
中学生や高校生のときって、そういうものなのかも。
何かに夢中になって、
夢中になってやれば、何でも叶うと思いこんだり、
逆にそういう人をちょっと斜めに見てみたり。
若さゆえの一生懸命さは、
後で思い返すと、ひ〜っと恥ずかしくなったりするけれど
それでも、どこかキラキラして見えるのはどうしてだろう。
かといって、自分がその時代にもう一度戻りたいとは思わないけれど。


サトルも南も、そして彼らの周囲の友だちも
音楽を通して、達成感や挫折や無力感や喜びを感じる。
少しずつ大人になる。
夢を叶えたものもいれば、
思い描いていた世界ではない場所に進むものもいたけれど。
それでも、高校時代という短い3年間に
あれほど音楽という世界に夢中にのめり込むことができる
音楽学校で学ぶ生徒たちが、私にはすごくうらやましいと思った。


音楽学校って、なんかいいなあ。
お金はすっごくかかりそうだけど。


船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏