凍裂  喜多 由布子

テレビや雑誌でも活躍する人気の料理研究家が、夫を刺した。
しかし、金銭的にも恵まれていて、
周囲からは夫婦仲も問題なく思われていたという。
刺した妻も、周囲の人から慕われていて、とても人を刺すとは思えない。
そして、妻は動機を一切口にしない。
いったい、なぜ妻は夫を刺したのか。
この夫婦を取り巻く友人や親戚、家族の視点から
語られる家族の姿、夫婦の姿から
しだいにその理由が明らかになっていく。


「モラル・ハラスメント」ということがテーマになっているのだけれど、
先日読んだ「ヘヴン」のいじめや、DVとはまた違った意味で怖い。
「モラル・ハラスメント」は、
暴力でなく、精神的に人をじわじわと追いつめる。
自分は絶対的に悪くなくて、
周りの人間は、自分の利益のためだけに存在すると思っている。
程度の差はあるとして、いるなあ、そういう人って。


そういう人と、何十年も一緒に暮らすということは、
じわじわと心を殺されていくようなものだなと思う。
でも、それが家族間であれば
被害者は自分が被害者であるということにすら
気が付かないし、
加害者も自分が加害者であると気付かない。
だから、逃げられないし、
助けも求められない。
じわじわと心が傷つけられて、少しずつ死んでいくのに任せて、
ただひたすら耐え続けるしかない。


でも、こういうことって
ほんとに程度の差こそあれ、実は身近にたくさんあるような気がする。
だから、怖いなと思う。
自分が加害者にならないように、
そして被害者になったときにすぐ気がつくように。
こういうことがあるということを知っておくことは、大事だなと思う。


あと、ちょっと気になったこと。
兄弟の年が離れているって、変なことなのかなあ。
この作品では、それも夫婦仲に対して疑問を投げかける要因の一つになってて。
うちは5歳半、学年では6学年離れていて
よく「結構、離れちゃったんですね〜」なんて言われて
私も「そうなんですよ〜」なんて何も考えずに言ってるんだけど。
変なふうに取る人もいるのかなあ。
あんまり言わない方がいいのかしら。


凍裂

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