八日目の蝉  角田 光代

不倫相手の子どもを一目見たいと、
誰もいない家に忍び込む希和子。
赤ん坊を抱いた瞬間、どうしようもなくなり
そのまま連れて逃げてしまう。


第一章はその希和子の視点から、
第二章は連れ去られた子ども(恵理菜)が大人になってからの視点で
物語が描かれる。


吉田修一の「悪人」を読んだときに感じたように、
いったい、悪いのは誰なんだと思ってしまった。
たしかに、人の赤ん坊を盗んでしまう希和子は悪い。
赤ん坊の両親も、その赤ん坊の人生をも狂わせてしまうのだから。
でも、希和子との人生が赤ん坊にとって幸せであるのならば?
実の両親だからといって、ろくでもない親と暮らすことが、
本当に幸せなのか?
でも、最初から連れ去りなんてなければ、
あのろくでもない両親とだって、もう少しマシな家庭生活ができたのかもしれないし。


読みながら、いろいろと考えを巡らす私と同じように、
恵理菜も迷い、考える。
でも、最後に彼女が、希和子と暮らした土地のにおいと風景を感じ
自分の気持ちに気が付くとき。
とっても嬉しかった。


憎むことでしか、自分を支えられないときもある。
でも、それが自分をさらに苦しめていたと気が付くことができたとき、
世界は変わるんだなあ。
そのためには、とことん憎んで苦しむ時期も必要なのだろうけれど。
でも、その先には、
八日目の蝉だけが見ることのできる世界があるのだ。


八日目の蝉

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