手紙  東野 圭吾

弟のために、強盗殺人という罪を犯してしまう兄。
そして、そのために、強盗殺人犯の弟として生きていかねばならない弟。
それから、弟はその後の人生の様々な局面で
理不尽な差別に向き合うことになる。
就職、やっと見つけた夢、恋愛、結婚。
やっとつかみかけた幸せが、目の前から逃げていく。
自分のせいではないのに。


強盗殺人犯の身内を身近にしてしまった周囲の人の反応も
とても考えさせられる。
たしかに、この弟が罪を犯したわけではない。
でも、それでも。
いや、それで距離を置くことは自分の道徳心に反する。
でも、それでも。
たぶん、周りの人も、すごく複雑なんだろうな。


兄は自分のために罪を犯した。
でも、その罪のために、自分は背負わなくてもいい苦労をしている。
夢をあきらめ、恋をあきらめて。
でも、それも罪の一つなのだと。
身内にそのような思いをさせることが、
こそこそ隠れて行きていくことが、
罪の一つなのだと、弟が勤めていた会社の社長が言う。


そして、その意味を、今度は自分が被害者の立場に立つことによって
弟は理解する。
私も、理解する。
理解するけれど、でも、やはり兄の気持ちを考えるとつらい。


兄が手紙を出すという行為は、
甘えでもあったのかもしれない。
でも、そういうのが一切なかったとしたら、
弟や被害者家族はそれもどう思うんだろう。
何をしても、どんな誠意を見せても、
それが相手を傷つけることになることもある。
ということなのかな。


だから、人を傷つけるということの代償は
とても大きい。
それが、どんな理由であっても。


なんだか、いっぱいいっぱい、考えさせられた。


手紙

手紙