千年の祈り  イーユン・リー

作者は、中国北京生まれの女性。
現在はアメリカで家族と暮らしているそうだ。
この作品も英語で書かれている。


でも、この短編集に出てくる登場人物たちは
みんな中国人だ。
宦官という制度、共産党の支配など、
中国の歴史、政治、思想、古い慣習に翻弄され、
それを一見静かに受け入れながらも
激しく生きている。
その激しさが、静かな文体で淡々と描かれる。


お店で売っているひまわりの種が、
お客さんがはまってどんどん買いつづけるようにと麻薬を入れたりなど
さすが中国という描写もあり、ぞっとする。
それでも、背景がどう違っていても、
生きている人間の思いは普遍的であることを思わされ、
どうしようもなく切なくなる。


離婚した娘を心配し、アメリカまで会いに来る父親。
父親の世代と娘の世代の価値観の違い、考え方の違い、
中国とアメリカの文化の違い、
どちらも間違っていないのに、どちらも相手を思っているのに、
傷つけあってしまう。


相手を思っているのに、すれ違ってしまうこと。
お互いに傷つきながらも、それでも、自分に正直に生きること。
時代の犠牲者と言えないこともない普通の人たちの
自分だけの真実に生きる物語は、
とても悲しいけれど、でも、とてもステキだった。


千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)

千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)