さよならの扉  平 安寿子

53歳という若さで、ガンのために急死した夫。
夫は苦しみの大きいガンの治療をこばみ、
残りの命を終えるまでの間に、
自分には愛人がいたと妻に告白し、
彼女の名前と電話番号を渡す。


うわー。それはきついなあ、と思ったのだが、
妻である仁恵は、なぜか猛烈に愛人の志生子に対して興味と親近感を抱き、
激しくつきまとう。
もちろん志生子は困惑する。
困惑しつつ、愛人という負い目から邪険にもできない。
生来の生真面目な性格から、これまた律儀に対応する。


仁恵のあっけらかんとした、子どもじみた言動は、
また違う意味できつい。
こんな女に付きまとわれたらと思うと、ぞっとする。
悪気はないし、根は素直なんだろうし、
悪い人ではない。
でも、この「悪い人じゃないんだけど」「悪気はないんだろうけれど」
というのが、一番性質が悪いのだと、しみじみ思わされる。


私は、ほんとにほんとに、こういう人は苦手だーーー!
と思いつづけながら読んだのだけれど、
最後に、ようやく仁恵が夫の死に向き合えたとき、
思わずうるっと来てしまった。


とても友だちになりたくないタイプの仁恵だけれど、
それでも、私にない魅力を持っているのも確かで。
だから、志生子も彼女をとことん突き放せなかったのだろうな。
と思いつつ、やっぱり仁恵は苦手だ。


さよならの扉

さよならの扉