ばかもの  絲山 秋子

大学生のヒデは、バイト先で知り合った年上の女性、額子に誘われ
そのままずるずると大学をサボり、彼女とのセックスに溺れる。
ここですでに「ばかもの」なわけで。
でも、本人は大学に行かないことも
額子とのセックスに溺れていることも、
不可抗力でしょうがないことと思っていて、
もう、本当にずるずると欲望のままなのだ。


その後は、今度はアルコールに溺れることになる。
それも、本人はしょうがなく、自然の流れでアルコールに溺れるわけで、
自分がどんどん落ちていくという実感がない。
気がついたら、自分ではどうしようもなくなっている。


この本を読んですごいなと思ったのは、
落ちていく人間の側から、その落ちていく内面というか
過程が描かれているところ。
そうか、そうやって人間は落ちていくのかと。


働かなかったり、学校に行かなくなったり、
アルコールに溺れたり、ろくでもない男や女に夢中になったり、
そういう端から見ていて周囲の人間はとても心配したり
悩んだりするわけだけれど。
どうして当の本人は気がつかないのかと、
怒りや悲しみやもどかしさで苦しむわけだけれど。
その当の本人の心の中は、こんな風になっているのかと。


ラストは、そんな「ばかもの」にも救いがあって、
ほっとした。
でも、自分の子どもには「ばかもの」になってほしくない。


ばかもの

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