食堂かたつむり  小川 糸

ある日、バイトが終わって帰宅すると、
家の中がすっからかん。
インド人の恋人が全財産を持って逃げたらしい。うわ。
恋人を恨むでもなく、泣き叫ぶでもなく、
ただ、ひっそりと声を無くし、
唯一残された祖母の形見であるぬか床を持って、
15年前に背を向けた故郷に戻る倫子。


声のないまま、故郷で「食堂かたつむり」をオープンする。
『猫を抱いて象と泳ぐ』では「チェス」、
そして、この作品では「料理」の世界がゆったりと描かれている。
素材の声を聞いて、食べる人の心に寄り添って作る料理。
でも、時にはインスタント食品を食べたいときもある。
そんなときはカップラーメンを食べても、ジャンクフードを食べてもいい。
大事なのは、その時の身体が欲するものを選ぶことなんだろうなあ。


この本には、冒頭の恋人との別れからはじまり、
いくつかの別れの場面が出てくる。
どの別れに対しても、倫子は現実から目を背けず、
ダメージを正面から、全身で受け止める。
強がりも、元気になった振りもせずに、
悲しみや辛さを自分の中で消化している。


そういう強さが、私にはなかなか持てなくて。
傷ついても、傷ついてない振りをしてみたり、
たいしたことないと思い込もうとしたり、
よくある話だし、こんなことでいつまでも悲しんでいてはダメだと思ったり。
だから、本当にそれを乗り越えて前に進むのに
時間がかかるんだろうなあ。


ところで、倫子の「おかん」が、
「つばさ」のお母さんとダブる・・・・・・


食堂かたつむり

食堂かたつむり