猫を抱いて象と泳ぐ   小川 洋子

私は数学や物理など理系の科目が本当に苦手で、
できるだけ避けて生きてきたようなところがあるので、
だからこそ「博士の愛した数式」を読んだとき、
数式って、数字って、なんて美しい世界なんだろうと。
こんな世界を今まで知らなかったとは、
もったいないことをしていたなあと思ったものだった。


そして今回は「チェス」。
チェスも今まで一度もやったことがないので、
チェスのルールもまったくわからないのだけれど。
それでも、この本に描かれるチェスの世界は
本当にうっとりするほど心地よくて。


何よりも、「チェス」というものを
こんなにきれいに表現できる著者が
素晴らしい。


チェス以外のディテールは、正直、あまり美しくないものを扱っている。
バスから出られなくなるくらい、太ってしまったマスター。
人間チェスの現実。
おばあさんが肌身はなさず持っている、体液が染み付いた布巾。


それでも、その一つ一つをそのままそっくり
受け入れることができるような、
いとおしく感じてしまうような、
そんな静かで淡々とした優しい世界だった。


猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ