スイートリトルライズ  江國 香織

テディベア作家の瑠璃子と、会社員の夫、聡。
子どもはなく、夫婦二人の生活。
一緒に旅行に行ったり、外食したり、
璃子の仕事の会食に夫婦で出席したりもする。
傍目には、とても仲のいい夫婦。


でも、その生活は「愛」ではなく
「飢餓」で満たされていると瑠璃子は思っている。
飢餓感でいっぱいの瑠璃子は、
静かに聡を思いやり、言葉をかけ、食事を作り、お茶を入れる。
そこには、何も非難されるものはない。
だからこそじわじわと追い詰められる聡の心情を思うと、
気の毒でたまらない。
そんな生活を続けていたら、いつかきっと心が壊れるだろう。


そして、聡は鍵をかけて自室に閉じこもる。
暴力もなく、もちろん言葉の暴力もなく、
優しく、でも、きっぱりと拒絶される瑠璃子もまた、
じわじわと追い詰められている。
鍵を閉められるたびに、少しずつ心に黒い染みが広がっているのではないかと
そんな気がする。


お互いに、静かに、でも確実に相手の心を殺している。
恐ろしい日常だ。


そんな二人が、これもまたお互いに恋人を作るわけで、
その恋人の前では心もカラダも生き返るのだ。
でも、それでも、恋人といながら、妻のことを、夫のことを思う。


DVの夫から離れられない妻がいるけれど、
これは心のDVからお互いに離れられない夫婦ということなのかな。
負のつながりは、とても強い。
依存しているからだろうけれど。


でも、そんなつながりもアリなんだなと思う自分もいる。
昔は、絶対にそんなこと、ありえないと思っていたけれど。
そんなことで人生無駄にするより、さっさとやり直しするべきだとも思っていた。
もちろん、理想を言えばそうだと思う。
でも、あえて自分の心をすり減らして、殺しながら生きて行く方法を
選ぶ人もいるんだということもわかるようになってきた。
私も、年をとったということなのかなあ。


スイートリトルライズ (幻冬舎文庫)

スイートリトルライズ (幻冬舎文庫)