春のオルガン  湯本 香樹実

小学校を卒業した春休み。
「夏の庭」では男の子が主人公だったが、
今度は女の子と、その弟のお話。
野良猫たちにエサをあげるおばさんと知り合い、
交流を深めるあたりが「夏の庭」のおじいさんとの交流を思い出させる。


主人公のトモミは、自分が怪獣になってしまう悪夢に悩まさせる。
弟テツは、猫の死体を探し続ける。
近所とのもめごと。祖母の死。家族の不仲。
子どもにとって、どうしようもできないことに、
子どもなりに一生懸命考えて、何かしようとしている姉弟の姿に、
いつの間にか大人の視点からしか、子どものことを見ていなかった自分に気付く。

おかあさんと私は毎日一緒にいるけれど、ほんとうは、おかあさんはおかあさんの
私は私の時間の中で生きてるんだよってことなのかもしれない。
でもそう考えるのは、やっぱり変な気分だ


私も、自分が6年生や中学生のとき、確実にそう思っていたのを思い出した。
でも、気がつくと忘れていたなあ。
子どもには子どもの世界があって、その中で時間が流れている。
頭ではわかっていても、心が忘れていたような気がする。


傷ついたり、悩んだり、悔しかったり、悲しかったり。
でも、その中で自分の力で少しずつ前に進むトモミとテツの姿に、
心がじんわりあったかくなった。
私はいつも心配してばっかり。
でも、子どもが持っている力をもっと信じて、
見守る強さを私も持てるようになりたい。
なんて思った。


春のオルガン (新潮文庫)

春のオルガン (新潮文庫)