愛しの座敷わらし  荻原 浩

出世街道から外され、地方勤務になった夫。
頼りがいのない夫に嫌気がさしている妻。
親をうざったく思うようになり、友だちとの関係に悩む中学生の娘。
病気がちのせいで過保護に育てられ、窮屈な思いをしている小学生の息子。
故郷を離れ、都会で息子家族との生活に生きる気力を無くし始めた母。


そんな、現代のどこにでもありそうな家族が、
夫の転勤先の古民家に引越しをする。
そこには、座敷わらしが住みついている。


最初は怖がっていた家族が、
その座敷わたしのおかげで、ほんの少しの勇気を出せるようになったり、
自分の心の奥にある、根っこの部分の気持ちを思い出す。
そして、家族の絆を取り戻すという物語。


印象的だったのは、「空気を読む」ことばかりに気を取られ、
自分を自由に出せなくなってしまっていた中学生の梓美が、
「まあ、いいか。たいした問題じゃない」
と、ふと思うところ。


「空気を読めない」人を「KY」と言って非難する風潮にある。
たしかに、空気を読むことはとても大事なこと。
でも、それにとらわれては、本末転倒。
今の子どもたちの世界では、「空気」が主役になってしまっているのかも。
本当は誰も持ってなんかいない「空気」というシナリオから外れることを、
極度に恐れているのかもしれない。


シンプルに考えて、シンプルに生きること。
大事なものを大事にすること。
座敷わらしは、別にそれを教えただけじゃなくて、
ただ傍にいるだけで、みんながそれに自分で気がついた。
それが、座敷わらしマジック。
いいなあ。座敷わらし。


もう一つ、いいなあと思ったのが、
この家族が越してきた古民家。
築百3年。土間があって梁があって囲炉裏があって。
うう〜。たまらんっ。住みたい。


愛しの座敷わらし

愛しの座敷わらし