模倣犯  宮部みゆき

世間を震撼させる若い女性を狙った連続殺人事件が起きた。
犯人は、被害者の遺族をいたぶるような電話をしたり
テレビに電話で登場したりするなど
世間に挑発を続ける。
そのうち、犯人は事故死するのだが、
2人組の犯人のうち1人は犯人ではないと言い出す青年が現れて・・・・・・。
その事件に、以前に一家を惨殺された少年真一や、
事件のルポを書き始めるライター滋子などが絡み合い
物語は進んでいく。


この「模倣犯」は、たしかテレビで放映された映画を先に見て
つまんない話だなあと思ったので、本でも読んでいなかった。
それが、たまたま図書館の「以前人気があった本」コーナーに置いてあり、
上下巻ともすごく分厚かったのだけれど、ちょうどお正月休みの前だったので
じっくり読んでみようかなと思って借りたのだった。


読んでみると、いやはや、ほんとに大作で。
文庫だと5巻分になるのだね。
しかし、最初から犯人がわかっているために
謎解きのおもしろさではなく、展開や登場人物の心の動きで
飽きさせずに読み進めさせるのはすごいなと思う。


犯罪を犯す人間、捜査する警察、それに関わるマスコミ、
様々な立場の人たちの心理や状況が書かれているが
やはり一番心を揺さぶられるのは、被害者の遺族だ。
たとえ犯人が捕まっても、何も終わらない。
もしもあの時に自分がどうにかしていればと、
一番悪いのは犯人だとわかっていながらも
どうしても自分を責めずにはいられずに、そうして
「自分で自分をじわじわと殺していく」遺族たち。
そしてそれは、犯人の家族にもいえることであって。


犯罪は犯人と被害者という当事者だけでなく、
そして、犯罪が起こったその時だけでなく、
犯人と被害者の家族をも、傷つける。
それも、何度も何度も。
命が果てるまで、終わりなく。


だからこそ、一家惨殺の生き残りとなった少年真一と、
連続殺人事件で孫娘を殺された老人との交流の場面は、
心に沁みた。
お互いにただ慰めあうのではなく、
つらい出来事に対してともに戦う「同志」として
この2人が出会えたことが、この物語の一番の救いだと思った。


あと、個人的には、
平凡なライターの滋子が、この事件のルポを書こうと決意するまでの、
そして書き出してから遭遇する迷いや悩みなど、
自分と重なる部分があって面白かった。


模倣犯〈上〉

模倣犯〈上〉

模倣犯〈下〉

模倣犯〈下〉