カブールの燕たち ヤスミナ・カドラ

「テロル」を読んで、ぜひこれも読まねばと思いつつ、
はや半年が過ぎていた。こらこら。


舞台はタリバンに統治されたアフガニスタンの首都カブール。
自由な言動は極端に制限され、町では私刑が横行する。
人間としての尊厳を失うまいとしながら、
希望も未来もない世界で、次第に自分が自分でなくなっていき、
人の不幸や死でしか、荒れ果てた自分の心を慰められなくなっていく。
暴力による圧政で支配された恐ろしい世界がそこにはある。


看守のアティクは重い病をかかえている妻を負担に思い、
疎ましく感じながらも見捨てることができない。
そんなとき、美しい女性死刑囚と出会う。
そのアティクを見て、妻はある決心をする。


読みながら、なんとなく話の筋は見えてしまったのだが、
それでもこの物語に引き込まれてしまうのは、
極限状態に追い込まれた人間の心理が痛いくらいに
伝わってくるからかもしれない。
妻が決心をし、それが実行に移されたときの
アティクの姿、その後の話の展開も
腹立たしく思いながらも、
このカブールでは誰もがそうなってしまうのかもしれないと
どこかで諦めている自分を感じた。


テロルにしても、この作品にしても、
人間がふとしたきっかけで、ふっと一線を越えてしまう瞬間が
淡々と描かれているのがすごいと思う。
「壮絶なる夫婦愛」と裏表紙に書いてあったけれど、
人間としてただ生きていくということすらも
壮絶な場所で、夫婦愛が存在することが奇跡なのかも。


そう考えながら、今も世界のあちこちで、
カブールのような町が現実に存在するのだということを思い出す。
何もできないかもしれないけれど、
そういう世界が間違いなく今この瞬間にも存在するということだけは
忘れてはいけないんだと思う。


カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット)

カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット)