メタボラ  桐野夏生

気が付くと沖縄の森の中を走っていた「僕」。
記憶喪失になっていることに気が付き、
森で出会ったジェイクと行動を共にする。
「僕」はジェイクに「ギンジ」という名を与えられるが、
その後、別れてそれぞれ仕事を見つけて生活する。
そのうち、「僕」は自分の記憶を取りもどすが……。


と、簡単に説明するとこういうお話。
最近の私の読書時間というと、電車に乗っている時間がほとんどで
出かける機会が少なくなると必然的に読書時間も少なくなり、
途中まで読んでいた本を久しぶりに開くと
ストーリーを忘れていたりして後戻りしたり……という感じで
なかなか進まないのだが、
この本は今までのあらすじを忘れることもなく、
降りる駅をうっかり忘れてしまいそうなほど引き込まれた。
おもしろかったなあ。


内容的には、若い労働力が企業に搾取されるカラクリや
ジェイクがホストという仕事にはまっていく様子など、
読んでいて辛かったんだけど。
特に、ギンジが記憶を失うまでの話は、きつい。
どれくらいきついかと言うと、
夕食のときに「ママが読んだ本ってどんな話?」と聞かれたので
ギンジの生い立ちの部分を話すと、途中でみんな辛くなり、
「もういいよ。やめて」とストップをかけられたほど。
まあ、たしかに食卓でするような話ではなかったかも。すまんすまん。


でも、ギンジの人生も、ジェイクの人生も、
今の日本ではありえないことではなく、
今もどこかで誰かが同じような境遇でもがいているのかもしれない。
ワーキングプアだったり、ネットカフェ難民だったり、
カリスマに傾倒してしまう若者だったり、
どうしてそうなっちゃったんだろうね、なんて言うのは簡単だけれど、
そこにたどり着かざるを得なかった状況というものが
あるんだなということを、しみじみと考えさせられた。


メタボラ

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