くうねるところすむところ  平 安寿子

求人広告誌の副編集長として働く梨央は30歳独身。
仕事も恋愛も行き詰まっていたところに、
偶然トビ職の徹男に出会い、一目ぼれする。
それをきっかけに工務店に転職。
しかし、その会社の社長は望まずして社長に就任した郷子。
一方、梨央もなりゆきで現場監督になってしまい……
というお話。


私も仕事柄、工務店さんやお施主さんとお話させていただくことは多い。
でも、それはあくまでも外から見た姿であって。
実際の工務店内部の事情(資金の動きや工事の進め方など)を
内側から垣間見ることができて、ほんとに面白かった。
そして、家づくりに携わる人たちの、そして施主の家に対する思い、
それを改めて感じた。
それと、家づくりの面白さと奥深さも。


初めて取材に行った家は、
床も壁も天井も、すべてが無垢材で作られた
木の香りで包まれた家だった。
間取りは部屋を仕切る壁がなく、開放的なスキップフロアで。
初めての取材で緊張していたのに、
木の香りと温もりで、ふぅっと肩の力が抜けていくようだった。


それからも取材に行くたびに最初は驚きの連続で。
杉の床板のやわらかさと温かさに。
珪藻土の壁の清々しい空気に。
狭い土地でプライバシーを守りながら光を取り入れた間取りに。
家って、人生を幸せにする場所なんだ。
人は、もっと家を楽しんで、心地よく暮らしていいんだ。
そして、家をつくる人たちって、ほんとにすごいなあ。
なんて、いつも思う。


だから、この仕事が好きなんだなあ。
次に行く家は、施主がどんな思いを抱いていて、
それを設計士が、職人が、どうやってカタチにしたのか。
それを知りたくて。それを聞くのが楽しくて。


はっ。思いっきり話がそれてしまったけれど。
ともかく、そういう家づくりの裏側を見ることができて
楽しかった。


あと、いいなあと思ったのは、女社長の郷子と梨央の掛け合い。
「ママの単純さって暴力的」と娘に言われる郷子は、
確かにそうなのだけれど、でも、年下の平社員である梨央の
生意気な物言いにも素直に耳を傾け、
自分の思いを飾らずにぶつけることができて。
周りの登場人物も、みな欠点はあるけれど憎めなくて。
読後がとても気持ちよかった。


くうねるところすむところ

くうねるところすむところ