執筆前夜

女性作家10人が、それぞれの作品を生み出すまでの舞台裏を語っている。
まず驚いたのは、小説を書くときには最初に大まかなプロットを作るだけで、
あとは登場人物たちが自由に動いていくのにまかせ、
結局自分でも予想しなかった結末になったりする、という方が多かったこと。
私は、小説というのは、特に推理小説などは、最初にみっちりと構想を
練って練って練りまくって作り上げるものだと思っていた。
でも、違うんだなあ。そういう、設計図を元に作り上げるものではないんだな。
だから私には小説は書けないんだなあ、と、妙に納得してしまったりして。


また、この10人の中で、一番私が参考になったのは、歌人林あまりさん。
この人は全然知らない人だったのだが。


短歌というものは、それこそ心に響いたものを直感で言葉に表現するものだと
思っていたのだけれど、そうではなく、

日常生活の中で、ふと浮かぶということはほとんどないですね。というより、浮かばせないようにしています。意識的に自分のテーマを書くんだという気持ちがあるので、あまりそういうふうにしたくないんです。

へーっ。そうなんだー。びっくりだ。おまけに

そして締め切りが決まってからは、なるべく心の奥底に降りていって、自分が一番問題にしていることなどを見てくるように努力をするんです。

と言う。自分の心の奥底を見つめて、突き詰めて突き詰めて、
それを短歌という凝縮された言葉で表現する。
そういう短歌もあるんだ。
すごいなあと思った。なんて重たいんだろう。
この人の短歌を読んでみたいなあと思った。


もう一つ、興味深かったのは

ただ自分の心に、どういう穴がどういうところに開いているかということを、いったん、地図みたいにとらえられるようにしておくという作業が必要ではないかと。そうすれば、新しく起こったつらいことも表現者としての自分がとらえ直しをして、客観化できるのではないかと思います

ということ。
うわー。つらそうだ。なんてつらそうな作業なんだ。
できれば避けて通りたい作業だ。


でも、これをすることによって、つらい出来事も悲しい出来事も悔しい出来事も、
傷つき損ではなく、自分の身の肥やしになるのかもしれない。
別に小説を書くわけでも、短歌を詠むわけでなくても、
普通に生きていくだけのためでも、やってみる価値はあるのかもしれない。


で、でも、怖いなあ・・・。うーむ。


ともかく、ゼロから何かを生み出す人たちというのは、すごい。


執筆前夜―女性作家10人が語る、プロの仕事の舞台裏。 (ラセ)

執筆前夜―女性作家10人が語る、プロの仕事の舞台裏。 (ラセ)