遥かなる水の音   村山 由佳


フランスの旅行会社で働かく緋紗子。
彼女の弟である周(アマネ)が病気で死んだ。
彼は死者の声を聞くことができるという能力があり、ゲイでもあって。
自分が死んだら、その灰をサハラにまいてほしいという周の願いを叶えるため、
緋紗子と、周と同居していたゲイのフランス人、ジャン・クロード、
そして日本で一緒に雑貨店を経営する周の友人、浩介と結衣の4人が
かつて周が旅した行程を辿り、モロッコへ向かう。
物語は、旅する4人と現地ガイド、
そして死者である周のそれぞれの視点からも語られる。


緋紗子はフランス人の恋人との関係に悩んでいて、
ジャン・クロードは最愛の周を亡くしたばかりで、
浩介と結衣は共同経営者か恋人かという不安定な関係で、
それぞれに悩みを抱えている。
4人の関係(特にジャン・クロード)もどこかぎくしゃくしていて。


それが、旅を通して、少しずつ心が近づいていく。
いや、近づいていくというより、
他者を受け入れることができるようになっていくというか。
それぞれが、自分にとって大切なことに気がついていくというか。


特に私が惹かれたのが
常にシニカルで嫌味っぽくて、イヤな奴であるジャン・クロード。
彼のいじわるな言葉の裏にある優しさとか、寂しさとか、届かない思いが
どうしようもなく悲しい。


最後のシーンは、病院でリハビリの付き添いのときに読んだのだけれど、
思わず泣けて鼻水ずるずるでちょっと恥ずかしかった。


あと、今回はちょうどラマダンの時期であるイスラムの国が舞台となっていて、
私が読んでいたのもラマダンだったので、
それもとても面白かった。


というか、この著者は私なんかよりずっとちゃんとイスラムのことを
わかっていて勉強しているなあと。

ラマダンにこうして断食をする意味、サコは考えたことがありますか?」
「そうね……ふだんは忘れてる食べ物への感謝を思い出すっていうようなこと?」
するとサイードはうなずいて言った。
「それも、もちろんあります。でももっと大事なことは、みんな一緒、ということネ」
「一緒?」
「そう。ラマダンの間は、王様も、おなかがすく。
 金持ちも、おなかがすく。
 そうすると、いつもいつもおなかをすかせてる貧乏人の気持ちがわかる。
 神様の前ではみんな一緒ということを、誰もが思いだすでしょ。
 そのための断食」


このくだりは、思わず俺様に読んで聞かせてあげましたよ。


遥かなる水の音

遥かなる水の音