あいのうた

岡田惠和さんの書くドラマが好きだ。
ちゅらさん」「Antique〜西洋骨董洋菓子店〜」が特に好き。


今回の話もそうだけれど、この人の書く物語は、
現実にはありえないような温かな場所がある。
ちゅらさん」の一風館や沖縄の実家、「Antique」の洋菓子店。
今回は片岡家とその友人たち。


こんなのありえないよーと思いながら、
ドラマの中だけでもそんな世界に浸るのは心地いい。
そして、いい人ばかりではなく、すっごく嫌な人も時には出てくる。
それがまた、すぐ身近にいるような、どこかで見たような嫌な奴。
でも、その人たちがそうなった裏側や、
背景もまたさらっと描かれていて、
ああ、こうなるのもわかるな、というか、
私にもそう思うことあるな、なんて思ったり。
人も物事も、一面だけで見ちゃいけないなあといつも思わされるのだ。


そして、そのありえない世界の外で起こることは。
特には胸をぎゅっと捕まれるような、
できれば見たくないような、人間の残酷な部分だったり、
冷たい部分だったり。
「あいのうた」でも、ことあるごとに、主人公の「あいちゃん」が
母親に投げつけられた冷たい言葉や仕打ちが出てくる。
「彼女たちの時代」は、そんな言葉のオンパレードだったなあ。


でも、岡田さんの書く物語では、
それに対して戦ったりしないのだ。
その事実を受け入れて、自分の中で昇華して、
そうして、自分が大きくなることでそれを乗り越える。
そして、その妙に現実的なつらい出来事を乗り越えるのを支えるのが、
ありえない温かな世界なのだ。


そして、ときどきあるドラマっぽくない現実的な展開。
「あいのうた」でも、あいちゃんが作るお弁当を毎日子どもたちが残してきて、
残さず食べてもらうためにあいちゃんが毎日果敢に弁当作りに挑む話があった。
お弁当作りの最終日、はじめて全部残さず食べてきて、
感動するあいちゃんとお父さん。
そうか、うまかったか!と言うお父さんに
子どもたちはあっさりと、まずくて残していたわけではなく、
弁当箱が大きすぎて食べられなかっただけだったという。
かくっ…みたいな。(最終日は弁当箱が壊れて、小さめの弁当箱に替えていた)


ラストも、さあ、お父さんは死んじゃうのか!軌跡は起こるのか!
たぶん死んじゃうんだろうけれど、きっとみんなで明るく強く生きていくのだろう、
みたいな感じではなく、あ、あら?みたいな。


でも、現実の世界って、そんなもんなんだろうなあ。
答えなんてなくて、あっても、実はその答えはすごく単純なものだったりして。


そうして、いつもいつも過剰なくらい笑顔だったお父さん。
正直、最初の頃はその笑顔がウソっぽくて、イヤだった。
どうしちゃったのよ、岡田さん、みたいな。


でも、だんだんその笑顔の意味がわかってきて、
ウソでもいいじゃん、笑ってみようか、
つらい時こそ、答えが出ないほどつらい時こそ、
笑ってみたらチカラが出てくるかもしれない、
なんて、そんな風に思えてしまって、
また今回も気持ちよく岡田マジックにひっかかってしまったのだった。